私的・すてき人

動くエコ、それが僕のこだわりです

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「さくらや・いずはら集配専門クリーニング」代表

いずはら かずや

泉原 一弥さん [大阪府岸和田市在住]

公式サイト: http://www2.sensyu.ne.jp/sakuraya/

プロフィール

1958年 岸和田市出身 
1976年 府立園芸高校卒業後、同高校の教員に
1996年 クリーニング店を開業
2011年 車の屋根にコケを装着した「やぁね、こけちゃっカー」を考案し、「エコジャパンカップ」入賞。府立貝塚高校、横山高校の教壇にも立つ

泉州でちょっと有名な“エコおじさん”といえばこの人。

屋根にてんこ盛りのコケを敷き詰めた、なんともオモロいワゴン車で街を走り回る姿は、地元ではもうすっかりおなじみだ。

「植物は二酸化炭素を吸って、酸素を出すという光合成をしますよね。だからこの車は街の空気をきれいにしながら走る。こんな究極のエコカー、どこにもないでしょ?」
たしかに大きな顔で減税をうたっているハイブリッドカーなど、足元にも及ばない完ぺきな“エコ”ではある。

発想のユニークさゆえ、なかなか普及には苦労しそうだが、彼は決してあきらめない。「次は何の屋根にコケを取り付けようか、遊園地の乗り物なんかどうやろか・・・」 “動く”緑化に徹底的にこだわる彼のチャレンジはさらに続いていくのだ。

教員からクリーニング屋に

ここまで“緑化”にこだわるのはなぜなのか?そのルーツは父親が造園業を営んでいたことにある。

「父が仕事する姿をいつも見て育ったんです。自然と植物に興味を持ったし、その勉強をしたくて園芸高校を選んだ。そこでさらに環境を守ることの大切さ、街を緑化するための知識や技術を学んだんです」

卒業後は大阪府立大学で学びながら、母校である園芸高校の造園科(現・環境緑化科)で働き始める。
「ほんまのこというと先生になりたいなんて、全然思てなかったんです。でもやってみると生徒と年が近いぶん、兄弟みたいですごく楽しい。好きな植物や環境のことを教えて、それが仕事になる。ほんとに面白かったなあ」

こうして13年もの間教壇に立ち、環境や緑の大切さを教えたが、やがて家業の造園業を継ぐ決心をする。
だが、教師とはあまりにも畑違いの仕事に、戸惑うことばかり。
「退職してオヤジの後を継いだものの、経営なんて初めてで、なかなかうまくいかなくて・・・」

どうしようか・・・と途方に暮れていた時、なぜか「クリーニング屋になろう!」とひらめく。
「造園は一度請け負ったら、ずっとその庭を定期的に管理していく。クリーニング屋もお客さんの家を毎週訪問して、ずっと長いお付きあいをしていく。なんか共通点を感じたんですよね」

こうして集配専門のクリーニング屋を始めるが、仕事が軌道に乗るにつれ、今度は胸のなかに何かモヤモヤしたものがたまってきたのだ。
「僕にとって集配の車は店舗と同じ。じゃあこの店舗の屋上、つまり車の屋根を緑化せんとアカンのちゃうか・・・」

そこからこだわりの「緑化プロジェクト」はスタートする。

十数年かけて誕生した「やぁね、こけちゃっカー」

まず、何を植えたらいいのか――芝生はどうやろ、でも土を屋根に乗せられるんやろか、飛ばされへんやろか・・・ああでもない、こうでもないと毎日のように試行錯誤は続き、やがて「乾燥に強いスナゴケならイケるんちゃうか!」と思いつく。

「そのスナゴケが、なんと地元の農産物直売所、道の駅愛彩ランドに売ってたんです。しかもコケをネットに埋め込んである。ネットやったら屋根に付けられるし、しかも1シート500円!これは安い、とソク買ってきました」

取り付ける金具に悩み、風で飛ばないか走行実験を繰り返し・・・と何度も失敗をくぐり抜けた末に、めでたく“街デビュー”したのは着想からなんと13年後! まさに汗と涙の結晶なのだ。

その名も「屋根」に「コケ」が「着く車」で、「やぁね、こけちゃっカー」。
産官民が協働でエコビジネスを育てようと創られた「エコジャパンカップ」にも応募し、見事入賞を果たした。

で、肝心の緑化効果はいかがなものか――
「まあ、ちょっと涼しいくらい(笑) でもエコを目指してるのに、クーラーはつけられへん。どんな猛暑でも窓開けて走ってます」
一方、本業でも「ごみゼロ」のクリーニング店として、エコを実践。
衣類に付いてくるハンガーは回収して再利用。ビニールカバーやプラスチックのクリップ、台紙までも回収するという徹底ぶりで、大阪府から「優良エコショップ」として表彰も受けた。

そしてさらに10年ほど前からは、再び教壇にも立っている。
午前中は府立貝塚高校、横山高校で造園学などの授業、お昼からはクリーニングの集配。さらに休日は「僕の知識が誰かの役に立つかも」と始めた神於山(こうのやま)の自然環境保全ボランティアに、地元商店街での環境活動・・・と休む間もなく「こけちゃっカー」で走り回る毎日。

「忙しいけどスゴイ楽しいんです。もっともっとエコをアピールして、環境にいい車や乗り物をドンドン増やしたい。ビルの屋上に緑があるのもいいけど、移動するモノの屋根に緑があると、たくさんの人に見てもらえるから」と、“動く”緑化にどこまでもこだわる。

市の公用車はどうやろう、ゴルフ場のカートの屋根ならコケを装着できるやろか、船や汽車は・・・と様々な企画を考えては知恵をしぼる。さてこれからどんなユニークなアイデアが生まれるのか、ちょっと楽しみだ。

2013/2/22 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔