私の見たい光景を掌のなかに見せてくれる、それが切り絵

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切り絵作家
さがわ あやの
佐川 綾野さん [大阪府泉佐野市在住]
公式サイト: http://ameblo.jp/ronron6060/

1982年 静岡県出身
2006年 京都精華大学芸術学部 版画専攻卒業
2009年 切り絵の作品を発表する 関西を中心に個展を開きながら、「アリオ鳳」で切り絵教室の講師も務める
彼女にとってカッターは、ドラえもんのポケットだ。
木々のすき間から射し込む木漏れ日の光と影、咲き誇るバラの香り、重なりあった葉っぱのカサコソとしたさざめき…
「あったらいいな、と思ったらすぐ、それを切り絵にしてしまうんです。そうしたら私の見たかった花や木や物語がパッとそこに現れる。庭がないから育てることのできない花たちが、私の手の中に咲いてくれる。もうウレシくてひとりニヤニヤしてしまうんです…」
カッターひとつあれば、どんな風景も生み出せる、なんだって手にできる…欲しいものをカタチにしたい―思いはシンプルでもその刃先から生まれる繊細なラインと、独特の透明感はまさに“綾野マジック”。彼女ならではの空気感がフワリ漂う。
木版画から切り絵に
大学での専攻は木版画だった。
「中学の頃、とっても素敵な木版画に出会ったんです。わあ、いいなあと思って私もやりたくて、版画の道を選びました。でもいざ大学を出てみると、それからが大変!これは誰もがぶち当たる壁なんですけど、なにせ芸術だけでは食べていけない。だからバイトに明け暮れて、だんだん作品を造る時間の余裕もなくなって……」
朝の5時から、ホテルの朝食のフロアスタッフをこなし、夕方までまたバイト。夜になってやっと制作にとりかかれる…という日も少なくなかった。
それにもう一つ彼女を悩ませたのが、木版画の重さだった。
車も無いため、たったひとり自転車に重い木版を積んでの移動……もうそれだけでクタクタに。
「だんだん体力が持たなくなって……そんな時、たまたま切り絵で作ったしおりを、アンティークショップにおかせてもらったんです。それが結構好評で、みんなに喜んでもらえた。なにせ紙とカッターがあればできる、体力いらんしこれはいいなあと」
思えば中学の頃から、誰に教わるでもなく切り絵をしては楽しんでいるような、モノづくりの好きな少女だった。
これをきっかけに再び切り絵の魅力に目覚めた彼女、次第にオリジナル作品を作って発表したいと思い始める。
たくさんのクリエイターと出会いたい
光を味方につけて、自在に魅せていくのが綾野流。
モクレン、椿、クロッカス……彼女の刃先から生まれる花たちは、どれもステンドグラスのように、射し込む光によって色あいや表情を変えていくように工夫されている。だからこそ、展示する場所やライティングにもひと一倍気を遣う。
さらにただ切り絵を張り付けるのではなく、アクリル板にはった絵を何枚か組み合わせることで、その奥行きや微妙な色のコントラストを表現していくのも彼女ならではだ。
「もともとドローイングという線画を描くのが好きなんですけど、それを今度は切ることで立体に作りあげていける。それもすごく楽しくて。一番の感動は窓辺に置いてある作品に朝日が差し込んだ時!まるで生きているように花や鳥たちが刻々色を変えて、床に影をつくる……うわぁ、きれいだなあって、ひとりでずっと遊んでます(笑)」
ここ数年は、泉南の春を代表するイベント「ふじまつり」への出品、ショップでの展示など、泉州に根付いた活動も増えてきた。
「そのたびにいろんなクリエイターさんに出会って、一緒に作品を作ったり力をもらったり。新しいことに挑戦しよう、楽しもうとしている人たちと、仕事ができるのは、とっても魅力的。これからはもっともっと積極的に地域と関わりながら、仕事の場を広げていきたいです」
夢は大きく、NHKの朝の子ども番組「シャキーン!」の制作にかかわること!。同番組はクイズやアニメ、歌などで子どもたちから自由な発想力を引きだそうという教養バラエティだ。
「大人でも楽しめるから、私もずっとファンで…(笑)歌詞のイラストでもなんでもいいから、何かの形で参加できたらいいなあって。いろんなクリエイターの方とお仕事がしてみたいという、思いの延長でもあります」
<2012/1/27 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔>