AJTA(アジャタ)にはたくさんの感動をもらった。
だから今度は僕が恩返ししたいんです

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チーム「DADAIS(ダデ)」代表
かわせ なおき
河瀬 直紀さん [大阪府貝塚市在住]
公式サイト: http://www4.hp-ez.com/hp/dadais/

1973年 貝塚市出身
1991年 府立佐野高等学校卒業
2004年 AJTAチーム「DADAIS」結成
2010年 AJTA全日本選手権優勝 10秒91の日本新記録も樹立、関西の小中学校を中心に普及活動も行う
いいトシのオジサンたちが、勝ったといっては抱き合って号泣し、負けたといっては地団太をふんで悔しがる。
これ、ニュースポーツのひとつとして注目されている「AJTA(アジャタ)」の全国大会でのこと。
ようは大人の玉入れなのだが、簡単そうに見えてこれがなかなか奥が深くて、オモシロイらしい。
二度の全国制覇を果たした、チーム「DADAIS(ダデ)」のリーダー、河瀬さんいわく「駆け引きや作戦もあって、意外に難しいからこそ僕ら大人がムキになってしまうんです(笑)」
オジサンたちをここまでアツくさせる「AJTA」の魅力って何?―――
AJTAを広めようとして自分がハマった
なんといっても最大の魅力は「ボールが一投でガサッと入る時のあの快感!一瞬で勝負がつくとこがたまらないんです」
この「AJTA」は、全日本玉入れ協会の頭文字を組み合わせたもので、北海道は和寒町で誕生したスポーツ。お手玉にも似た100個のアジャタボールを、4~6人一組で早く全部入れたほうが勝ちという、とてもシンプルなルールだ。
ちなみにカゴの高さは4m12cmと決められているのだが、これはなんと和寒町の最低気温記録からとったというから驚き! そしてカゴの直径44㎝も、和寒町が北緯44度に位置することにちなんで制定されたという。
彼が「AJTA」と出会ったのは、12年前。地元の「生涯スポーツ推進委員」を任された時、ちょうど貝塚市が市民の間に広めようとしていたのが、この競技だったのだ。
「年も性別も関係なく、誰でもすぐできる。そんな楽しさをみんなに知ってもらおうと、イベントを開いたりしてガンバッテるうちに、僕がいちばんハマってしまった(笑)」
とはいえ、当時彼は意外にも、チーム競技にウンザリしていたという。
「もともとサッカー少年で、大人になってからも仲間とチーム作ってたんです。けど、そのたびにグランドとって、交渉して、人数調整して…それが大変で、もういやや!って思ってた時期やったんです」
マラソンやサーフィンを、ひとり自由に楽しんでいた彼だったが、この「AJTA」に出会って、再び血が騒ぎだす。
「僕って、なんやかんやゆうて、やっぱり根がチームプレー好きなんやなって。仲間とワァッーとやりたくて、たまらんようになってしまって…」
ついに地元の同級生と後輩を誘ってチーム「DADAIS(ダデ)」を結成。ちなみにダデは、フランス語で“ヤンチャな若者”という意味なんだとか。
3度目でつかんだ初優勝
だが結構イケるやろ、と思っていた初めての大会では大苦戦!
「いざやってみると、ムチャクチャ難しいんです。ひとり17個のボールを持って投げるんですけど、それがバラけてしまって、全然カゴに入らない。もうボロ負けでした」
悔しさから仕事の合い間をぬっては、集まって練習を重ねたが、翌年の大会でも思ったような試合ができず完敗…
「やってもやっても勝たれへん、悔しくて悔しくて… 一発勝負やから、一度調子が悪くなると切り替えるのが難しい。技だけじゃなくてメンタルも重要なんです。簡単にウマくならないからムキになる、意地になってしまうんですよ」
そしてついに3度目の全国大会挑戦で、見事に初優勝を決めた瞬間、メンバーは抱き合って号泣… オジサンたちの顔は涙でクシャクシャになった。
しかも80を超すチームがしのぎを削るなか、10秒91という日本新記録までもも打ち立てる。
それをきっかけにマスコミにも紹介されることが増え、あの「笑っていいとも!」や朝の情報番組「はなまるマーケット」「ZIP!」、さらには「世界一受けたい授業」や「よ~いドン!」など、そうそうたる高視聴率番組からの出演依頼がひっきりなしに来るように。
にも関わらず彼の表情はちょっとくもり気味… 「露出は多いのに、肝心の競技がなかなかメジャーにならない」のが、今の最大の悩みなのだ。
「勝つことの喜びや、仲間と一緒に感動できることの素晴らしさ… この競技に、僕はたくさん大事なものをもらったんです。だからAJTAの面白さをもっともっと宣伝したいし、競技人口を増やしたい。そのために情熱を注いでくれているメンバーにも感謝ですし、誇りにも思ってます。今は北海道と関西、九州にしか協会が無いけど、いつか全国各地でメジャーな大会が開かれるような大きなスポーツにしたい…それが僕の夢なんです!」
これからは小中学生はもちろん、お年寄りや障がいのある人にも楽しんでほしいと、呼ばれればどこへでも出掛け、普及に走り回る。
たかが玉入れ、されど玉入れ―――大きな感動をもらった恩返しとして、今度は「AJTA」というスポーツを引っぱる“牽引力”になろうと決めている。
<2013/8/9 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔>