私的・すてき人

大好きな泉北の街で、人と人を音楽でつなぎたい

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パーカッション・ドラム・フィドル奏者

かみぬま けんじ

上沼 健二さん [大阪府堺市在住]

公式サイト: https://www.kaminumakenji.com/

プロフィール

2005年 大阪市立大学在学中から音楽活動を展開。卒業後プロの音楽奏者に
2012年 アイルランドのバウロンフェスティバル「Craiceann」に日本人として初参加
2013年 初のソロアルバム「朝景暮回~以て非なるものの邂逅」をリリース
2017年 泉北ニュータウンまちびらき50周年の市民企画プロジェクトに参加「Skylish(サカイリッシュ)」を起ち上げる 年間数多くのライブやコンサート活動をしながら教室も主宰

自分らしく“輝ける場所”は人それぞれ違う。
多くの若者が進学や就職でここ泉北を去っていくが、一方で彼のように「ここやからこそ楽しいんやん!」という生き方もある。
 
「緑が多くて、ニュータウンなのに旧村の独特の文化や歴史がたくさん残っていて。何より人と人とのつながりがすごく濃いんです。泉北は僕を育ててくれたいちばん好きな場所!この街で僕が世界で学んできた音楽の魅力を発信していきたいし、ごく自然に人が音楽でつながれる場所にしていければいいなあと」
 
大好きな泉北を盛り上げようと、ユニークな音楽プロジェクトをいくつも仕掛けながら、一方で数少ないプロのアイリッシュ音楽奏者として大きな舞台にも立つ――
人はどこにいても広い世界とつながることができる、自分の場所で光り輝けるのだということを彼は教えてくれる。
 
 

サマーフェスタで目覚めた地元愛

すべての始まりは、新檜尾台の住民が毎年手作りで開催する「サマーフェスタ」だった。
 
もともと友だちとバンドを組んでドラムを叩いていた高校時代。
たまたま新檜尾台の体育館でライブをやった時「地元のおっちゃん、おばちゃんたちと仲良くなって。ワイワイやってるうちに、地域を盛りあげるにはどうしたらいいんだろうって話になったんです」
 
そこからサマーフェスタの企画や運営に参加することになり、大学時代には青年団の長として祭りをけん引。環境や年齢すべてを超えてつながることの素晴らしさを身をもって体験した。これをきっかけに泉北は、彼にとってかけがえのない場所になっていく。
 
 
中学時代から近所の弦楽団でバイオリンを弾き、高校ではドラムにのめりこんでいた彼が、自分にしかできない音楽を模索するようになったのが大学の時。
 
「アイルランドの民族音楽はフォークやロックのルーツだといわれていて、音色もどこかなつかしい。アイルランドでは音楽が生活にとても結びついていて、路上やパブでもすぐセッションが始まる。まさに人と人が音楽でつながっているんですね。そんなアイリッシュ音楽の素晴らしさに、どんどん魅了されてしまったんです」
 
ペルー発祥の木製の箱のような打楽器カホンを演奏に取り入れ、アイルランドの太鼓バウロン、弦楽器のフィドル…と日本ではマイナーともいえるような楽器を操りながら、オンリーワンの世界を構築していった。
 
そして大学卒業。多くの人間がここで夢列車を降りて、就職という堅実な道へとシフトしていくのだが彼は違った。
「幸か不幸か僕は、働きながら夜間の大学に通うという環境のなかで生きてきた。だからただ夢を追って音楽を選んだわけじゃないんです。大好きな音楽を仕事にし続けていくにはどうすればいいか。社会とマッチングさせていくには何をすればいいのか…そう考えた時に世界の音楽を学び、それをこの南大阪の地に独自の音楽として広めていきたいと思ったんですね」
 
 

目の前の人を楽しませる、それこそが音楽

卒業後すぐから毎月のように開催しているのが、カホンのみでアンサンブルを作るというユニークなワークショップ「カホンサークル」。当時はなじみの薄かったこのカホンも、今では地元の小学生からお年寄りまで幅広い年代で楽しむ人が増えてきた。これも10年かけて築いた彼の活動のたまものに他ならない。
 
「僕が伝えているカホンやバウロンといった民族楽器は、意外と簡単なんですよ。だから誰でもすぐ演奏できるのも魅力なんです」
 
 
また堺市が支援する「泉北ニュータウンまちびらき50周年」の市民プロジェクトでは、イベントの際にバウロンなどの民族楽器による音楽隊を率いて街や会場をパレードする「Skylish(サカイリッシュ)」を始動。
 
「ステージがあるとどうしてもある程度の距離ができてしまう。なので街なかで一般の人を装って突然演奏を始めるフラッシュモブを仕掛けたり、アイリッシュパブのように会話を楽しみながらセッションやパレードをやったりと、目の前の人たちと一緒に音楽を楽しむ…そんな場を作りたかったんです」
 
 
その一方で、6年前にはアイルランドの「バウロンフェスティバル」に日本人として初参加、トップクラスの評価を受け現地でも話題に。
ソロ活動はもちろんライブやレコーディングのサポートを数多く行うかたわら、世界的なのこぎり演奏家・サキタハヂメ氏など、たくさんの音楽家との協演もこなす日々だ。
 
 

「これからは音楽で地元を盛り上げていくために、次の世代を育てていかなきゃと思ってるんです。この街に恩返しするつもりで、きちんとバトンを渡さないと。夢ですか?ヨボヨボになっても楽器好き、人間好き、この街が大好きなおじいちゃんでいたいかな(笑)」
 
 

2018/8/14 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔