このメンバーで上を目指す――いつか必ず『なでしこリーグ』へ
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「和泉テクノFC」主将
ひらお えり
平尾 恵理さん [大阪府和泉市在住]
公式サイト: https://www.facebook.com/ainsyokuhin/
1993年 茨城県出身
2010年 U17 FIFAワールドカップにGKとして出場
2013年 筑波大学時代にユニバーシアードサッカー日本代表
2015年 「AC長野パルセイロ」に入団
2017年 「和泉テクノFC」にキャプテンとして入団 関西3部リーグ優勝 2部昇格を決める
夢への挑戦がはじまった――
今年6月、和泉市初の女子サッカーチーム「和泉テクノFC」が誕生。
新生チームで頂点を目指したいと、夢を賭けて全国から選手たちが集まった。そこにはなんと「なでしこリーグ」1部の選手3人もエントリー。
そのメンバーを束ね、チームの要になっているのが主将の彼女だ。
「いや私、全然みんなを引っぱってなんかいないんです(笑) 3部で優勝しましたけど、これはただの通過点。勝たなくちゃ、もっともっと上にいかなくちゃ…みんな志が高いから、勝手にいいチームが出来あがってる」
2部から1部へそして「なでしこリーグ」へ…彼女たちが駆けあがっていくさまを、ここ和泉で見られるんだとしたらこんなにワクワクすることはない。
じゃんけんで負けてGKに
サッカーを始めたのは6歳の時。
「兄が近くのサッカースポーツ少年団に入ってたんです。それを見に行ってるうちに、なんとなく。気がついたら入ってたっていうか」
だが当時はまだまだ、女子サッカーが光を浴びていない時代。あの澤穂希選手がサッカーを始めた時とまったく同じように、男子に交じってたったひとりボールを追いかけた。
「小学生なので男女でそんなに体格も変わらないし、楽しくてしかたなかった。週に4日は練習に参加してました」
そして中学でもまたもや男子サッカー部に、ただひとりの女子として入部。
だが成長とともに、筋力や体力の差が開いていくのは当然のことだった。
「走る速さもボールのスピードもパワーも全然違う。今思えばツラいことの方が多かったです。でも負けず嫌いなんで頑張れたかも」
だがこの男子と張り合った3年間は、彼女を大きく成長させることに。
「次は絶対、女子サッカー部がある高校に!」と進んだ宮城の聖和学園高校時代には、なでしこジャパンの戦力となるGK(ゴールキーパー)を育てる「JFAスーパー少女プロジェクト」にも2年連続で招集され、合宿に参加。
高2の時にはついに日本代表の座を射止め、トリニダード・トバコで行われた「FIFAワールドカップ」にチームの守護神として出場する。
「選ばれた時は『え、自分?!』って感じ。ビックリでした。でも緊張とプレッシャーで自分らしいプレーができなかったのが悔しいんです。私の失点が無かったら…とか」
とはいえ堂々の準優勝。最終戦、韓国に敗れたものの、キーパーにとっては過酷なPKでさえ1本目を見事に止めている。
誰もが目立つFWに憧れるなか、小学生の頃からずっとGKひと筋。
「いや、ほんとはフィールドで蹴りたかったんですよ。でも小学5年の時にたまたまジャンケンに負けて(笑) 仕方なくやってみたら『うまいじゃん!』とかほめられて、その気になってしまった」
1対1でのセービングが得意。「シュート10本きたら6、7本は止められるかな。ピンチの時しか出番がこないじゃないですか?でもそのピンチを救った時、みんながスゴく喜んでくれる…それがキーパーの魅力なんです」
挫折から開けた新たな道
さらに筑波大学でもインカレ準優勝、「ユニバーシアード」日本代表に選ばれ…と大活躍。
「筑波大時代には、人間性の部分で成長したなっていうのはあります。礼儀だったり、相手を気遣う事だったり、代々そういう気風が受け継がれていて」
卒業後は、なでしこ1部の「AC長野パルセイロ」に入団。だが社会人クラブの壁は思ったより大きく高かった。
「とにかくレベルも意識も全然違う。ついていくだけで、もう必死でした」
結局2年間試合には出られぬまま長野を去ることになるが、その時彼女を「和泉テクノ」に誘ったのが、パルセイロの川末コーチだった。
「和泉テクノ」の監督に決まっていた彼が、どうしても欲しかったのが才能とセンスを持ち合わせ、さらに人の心に寄り添えるようなチームの司令塔。
「もうサッカーはしない、やめるって決めてたんです。川末さんに誘われても断ってたんですよ。それでも『一緒に新しいチームを作ってほしい』と熱心に何度も何度も誘ってくれて。ああ、こんなにいってくれる人がいるんだ…と思ってここに来ることを決めたんです」
和泉市にある大型産業団地「テクノステージ和泉」には、現在100社以上の企業が立地する。その企業で構成する「テクノステージ和泉まちづくり協議会」が、「何か社会貢献できることを」とスタートさせたのが、この「和泉テクノFC」。
テクノステージ内の企業に就職してもらい、様々な支援をしながらチームを育てたいというものだ。
「朝から夕方5時までは工場で、イカのおつまみを作ってます(笑) で、7時からは練習、週5日はそんな感じです」
女子サッカーの現状はまだまだ厳しい。世界一になったあの「なでしこJAPAN」のメンバーでさえ、アルバイトをしながらプレーしている選手も多い。
サッカーだけで生活できる環境は難しいとしても、こうして安定した仕事とバックアップ体制のあるクラブが増えれば、状況は少しすつ変わっていくはず。
「もっともっと強くなってこのチームで上を目指したい。いつかなでしこリーグで戦えるように、とにかく頑張ります」
2017/10/11 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔