私的・すてき人

毎日新しい出会いがあって、拍手をもらえる…それが本当に幸せ

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ピアニスト 作曲家

いしだ みちよ

石田 美智代さん [大阪府堺市在住]

公式サイト: https://www.facebook.com/michiyo.lshida

プロフィール

大阪府出身
相愛大学音楽学部作曲学科作曲専攻在学中より、演奏活動をスタート
卒業後はホテル日航大阪、ホテル・ザ・リッツカールトンなど有名ホテルのラウンジで演奏を担当するほか、様々なジャンルのアーティストと組んでのライブ活動を展開。
漫才コンビ、ザ・ぼんちのおさむが主宰する「おさむちゃんバンド」のメンバーとしても活躍中

一日数ヶ所ものライブを年中ほぼ休みなしで駆け回る、まるでAKB並みのハードスケジュールをこなすパワフルウーマンがこの人。
 
ジャズ、ポップス、演歌、シャンソン…とにかく何でもござれのオールマイティさ、引き出しの多さであらゆるジャンルから「共演したい」コールは引っ切りなし。
 
 
「同じ曲を演奏しても、一緒にやるバンドメンバーやシンガーによって全然違う曲になる。日々新しい人との出会いがあって、新しい音楽にめぐり会える。そしてみんなにも喜んでもらえる。毎日、毎日が楽しさに埋もれていて、本当に幸せなんです」
 
 

 

実践で培った無敵のテクニック

以前、梅田の阪神百貨店でのフロア演奏を任されていた時の事――
 
ただ漫然とピアノをたたいていたのでは、客は振り向いてもくれない。
 
「どうすれば人足を止めさせられるのか、どうすれば耳を傾けてくれるのかを、必死に考えざるを得なくなって」
 
コンサートなら、さした努力もなくファンは聴き入ってくれる。
 
だが関心の無い人の心を振り向かせるには、どうすればいいんだろう…
 
 
「それは聴いてくださるお客さまの気配を感じながら、押したりひいてみたり、時には立ち上がってパフォーマンスしたり…人を惹きつけることの難しさを、肌で学んだんです」
 
人を惹きつける演奏をしたい――それは彼女の中で大きな課題となっていく。
 
 
母親に連れられてピアノを習い始めたものの、「練習を、どうやってサボるかばっかり考えてる」よくいる普通の女のコだった。だが高校になって「なんかもう、自分には音楽しかないんちゃうかなと思い始めて」相愛大学音楽学部に入学。
 
「ピアノ科に入ったら一日6時間とか弾かされるから、メチャ大変やと思って作曲学科っを選んだんです。でも入ってみたら演奏はピアノ科並みに出来て当り前、その上で作曲を勉強するとこなんやと知って、うわあエライとこ来てしもた~って(笑)」
 
 
そんなある日彼女にとって、大きなターニングポイントが訪れる。
 
友人の紹介で「ラウンジでソロピアノを弾いてみない?」という誘いが来たのだ。
 
ステーキでおなじみのレストラン「南海グリル」での演奏。
 
 
何をどうやっていいやら、それでも「カッコ悪いことして友人の顔をつぶすわけにはいかへん」と覚悟を決めた彼女は、それから毎日バイトの前に2時間、そしてバイトを終えてからまた数時間、今では恩師と仰ぐ人のもとにレッスンに通い始めたのだ。
 
「シャンソン、ラテン、演歌…とにかくありとあらゆるジャンルの勉強をさせてもらいました。メチャクチャ大変やったけど、その経験があったからこそ、現在があると思うんです」
 
 
どんなリクエストが来ても、どんなジャンルの曲をふられても、瞬時にスイッチを切り替えられる…
 
そんな“無敵”のテクニックを、この時こうして身につけていたのだ。
 

群を抜く各界スターとの共演

さらに大学の4年間、バイト代のほとんどをつぎ込んで「行ける限りのライブに顔を出して、聴きまくった!」ことから多くのアーティストとのパイプもすでに出来ていた。
 
ほとんどの学生がただ学ぶことに費やしていた時間を、彼女はプロとして走り出すための、助走にあてていたのだ。
 
 
「音大を出ても、プロの演奏家になれる事は少なくて、学校教師やピアノの先生になる人がほとんど。でもラッキーなことに私は卒業の時に、もう人とのつながりができてたの」
 
 
それからは、阪急インターナショナル、リッツ…と「大阪市内のホテルはほぼ制覇!」というくらい、あちこちで演奏を任されることに。さらに半年シゴかれて泣いたという日航ホテルのスカイラウンジ(ジェットストリーム)での演奏など、様々な体験が“今”を創っている。
 
「一番難しいのは相手との呼吸かな。ジャズにはジャズの、ミュージカル歌手にはミュージカルの独特のノリがある。
 
相手がどう歌いたいのか、どんな風に演奏したいのかを想像する難しさはいつもあるんです」
 
  
劇団四季のミュージカル歌手や元宝塚スター、和太鼓奏者に菅原洋一、マッハ文朱やミッキー・カーチスまで…と共演者の数とジャンルの広さは、関西でも群を抜く。
 
 
さらに20年以上も漫才コンビ、ザ・ぼんちのおさむがジャズを歌う「おさむちゃんバンド」にも、メンバーとして参加。
 
ソロライブはもちろん、合間を縫ってはチャリティコンサートで弾くことも多く、忙しさはハンパないはず。
 
しかも彼女、毎朝子供のお弁当を作り、家事を頑張るお母さんでもあるのだ。
 
「会場から会場へ移動する、車の運転が唯一ホッとする心の切り替えかなあ。明日使うキュウリ買わなあかんわっとか思ったりして(笑)」
 
 
そしてここ数年堺東のイタリアンバーで、挑戦しているのが「投げ銭ライブ」。
 
いわば路上ライブのお店版。飲食している客が演奏を気に入れば、お金を入れるというものだ。
 
彼女のようなベテランがあえて挑むのには、ワケがある。
 
「どれだけ私のピアノが、人を惹きつけられるのか…ちょっと初心に戻ってみるのもいいかなと思って。食べてる人の心を、どうやってこっちに引っぱろうか、ふり向かせようか――アイデアを絞って頑張ってます」
 
 
いつも心にあるのは「人を惹きつける演奏がしたい」という思い。
 
ベテランという言葉に甘えることもおごる事もなく、新しい世界に挑戦する…それが彼女の魅力でもある。
 

2015/9/5 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔