私的・すてき人

泉州発 いつか世界へ!

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ギタリスト

あだち くみ

安達 久美さん [大阪府貝塚市出身]

公式サイト: http://www.ragnet.co.jp/artist_adachi.html

プロフィール

1996年 高校卒業後、ロサンゼルスの音楽学校「Musicians Institute」に留学
2005年 ドラマー則竹裕之に声をかけられたのをきっかけに「club PANGAEA」 (現 安達久美クラブパンゲア)を結成  全国ツアーも
2007年 1stアルバム「リトルウイング」をリリース ギタースクールも主宰

女性ギタリストの“パイオニア”になりたい――
 
エレキギターといえば、まさに男の世界。
日本はもちろん、海外でもピンで活躍している女性ギタリストはほんのひと握りだ。
そのいわば未開の地に、エレキ一本で挑もうという、ちょっと“オトコマエ”なチャレンジャーが彼女。
 
もちろん世界というドアは、叩いたからといってそう簡単には開かない。
だが「ギターで生きていく!」と心に決めた10歳の時の夢が、彼女を前へ前へと走らせる。
いつか世界へ、そしてトップアーティストに・・・。

小学生でギタリスト宣言

なんと家の隣がだんじり小屋で、幼い頃からお囃子を聞いて育ったという根っからの泉州っ子。
彼女の代表曲「DANJIRI FUNK」も、「ソーリャ、ソーリャ」の掛け声の中で生まれてきた作品だ。
「小さい時はまるで男のコ。5歳上のお兄ちゃんが大好きで、ずっとニコイチで駆け回って遊んでたんです。だから中学になって制服がスカートなのもイヤで、ガクランで学校行きたいって思ってたし」
 
そんな彼女が初めてエレキギターを手にしたのは小学5年の時。
「ちょうどバンドブームで、お兄ちゃんがギターを弾きだしたんです。私もやってみたくて、兄のいない時にこっそり・・・・・・そしたらこれが面白くてやめられへんようになって。曲を聴いてそれを耳コピーしては弾くんですけど、気がついたら1分でも早く家に帰ってギターを弾きたい小学生になってたんです(笑)」
 
ジャニーズ好きだった女のコが、いきなりジミ・ヘンドリックスやらレッドツェッペリンのロックな世界へ。教則本どうりキッチリ励む兄とは違って、誰に教わるでもなくひたすら耳コピーでこなしてしまうのが彼女流だ。
「初めて弾いたのがツェッペリンの『天国への階段』。今思えばあの曲のなかにはほとんどのテクニックが詰まっていて、知らん間にいろんなことを覚えてたんだと思います」
 
そして中学2年で、兄のバンドのリードギターとしてライブのステージに立つことになる。
「ギターならフロントに立てる、なんて華やかでカッコイイんやろと」
 
それからというもの、ギターへの思いは高まるばかり。憧れのギタリスト、スコット・ヘンダーソンにどうしても教えてもらいたいと、彼が講師を務めるロサンゼルスのスクール「Musicians Institute」に何度も電話をしたり、パンフレットを取り寄せ・・・と「ギターがすべて」の人生が幕を開ける。

則竹裕之との出会い

だが、そのスクールは高校卒業が入学の条件だったため、仕方なく「家に一番近い」というだけで選んだ高校へ進学。そして4年後やっと憧れの場所で勉強することになる。
 
「半年ぐらいは英語を聴き取るだけでも大変。でもギターがあれば、世界各国のどんな人ともすぐに通じ合うんです。音楽があれば言葉は要らない。学校のなかでも2~3人集まればすぐその場でセッション大会が始まるし。日本とは違う外国人のハングリーさ、テクニック・・・いろんな刺激を受けてほんとに楽しい1年でした」
 
帰国後は歌手「花*花」などのサポートをしていたが、たまたまドラマー・則竹裕之のライブに出演したのをきっかけに彼の目に留まり「一緒にやらない?」と声をかけられたことからユニット「club PANGAEA」が誕生。ユニークなオリジナル曲とパワフルな演奏、しかも女性ということもあって徐々に注目され始め、アルバムも3枚目をリリースした。
 
「ギターの魅力はアドリブなんです。即興で弾いたメロディに、相手はどう応えてくるんやろとか、そこから音の会話が始まる。で、一番感激するのはステージでお客さんと一体になれた瞬間。すべてが止まって見えるんです、自分が宙に浮いてるっていうか・・・あの快感を味わうと、もうやめられない(笑)」
 
一方で、ギターをもっとポピュラーなものにしたいという思いも。
「ギターの世界ってマニアックで、一般の人にはあんまり馴染みがないでしょ。そのへんのオバチャンにも『あ、これ知ってる!』っていってもらえるぐらい、わかりやすくてポップなものにしたいんです。もっともっと間口を広げて、たくさんの人にギターを聴いたり弾いてもらいたい。だから私がその足がかりになれれば」
 
“オトコマエ”な夢にどこまで迫れるのか、どんな進化を遂げるのか――同じ泉州人として、女性として、とても楽しみだ。

2009/09/02 取材・文/花井奈穂子 写真提供/ ラグインターナショナルミュージック