私的・すてき人

誰かの力になれる、それが何よりうれしい

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「からだ工房 もみの木」院長 元バレーボール全日本代表

きむら くみ

木村 久美さん [大阪府堺市在住]

公式サイト:

プロフィール

1974年 堺市出身
1992年 四天王寺高校卒業後、ユニチカバレー部へ
1997年 全日本ワールドグランプリ選出
2000年 東レに移籍 「黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会」ではMVP、敢闘賞ほかベスト6を2回獲得
2007年 堺東に「からだ工房 もみの木」開設

どの人生にも、“ターニングポイント”は必ず何度か訪れる。
住み慣れた場所に留まるのか、思いきって新しい世界へ跳ぶのか―。

「バレーの世界だけで終わりたくない、全く違うことをやってみたかった―」
「引退」という言葉を口にした時、トップアスリートとして生きてきた時間とキャリアを、惜しげもなく捨てて飛び込んだのはなんと“マッサージ”というメディカルの世界。
「自分の店を持つなんて絶対ムリや、無謀や、やめとけってみんなにいわれました。でもそんなん、やってみんとワカランやん!って(笑)そうでしょ?」
選手時代のコートネームは“ユウキ”。まさに勇気が切り開いた新しい人生を、彼女は今着実に歩き始めている。

ゴッドハンドとの出会い

何事にも勇気を持つようにと、先輩がつけてくれたニックネーム「ユウキ」。身長177cmとアタッカーとしては小柄なため「拾って攻められる選手を目指した」という彼女の、Vリーグでの攻守に光る活躍を覚えている人も多いだろう。

バレーを始めたのは中学1年の時。体格の良さもあって、アッという間に頭角を現し、中3の時には大阪代表として「さわやか杯」(現「アクエリアス杯」)に出場。四天王寺高校でも1年の時からインターハイへ、3年ではアジアジュニア選手権にも出場、早くから“世界”を見てきた。
「遠征に行ってビックリ!。外国の選手はハングリー精神が違う、生活すべてがかかっているゆえのスゴイ気迫。それに比べて日本は精神的に弱いなあと。帰ってこれる場所があるっていうか・・・世界との圧倒的な差はここにあるんやなあって」

そして東洋の魔女でお馴染み、日本のバレーを世界に知らしめたパイオニアともいえる「ユニチカ」に入社。「入ってみたらあまりの厳しさに驚きました。それこそ朝から晩まで体育館に缶詰めで練習、練習。休みなんて半年に1回とか・・・社会で何が起こってるのかも全くわからない、まるで世間から隔離されてる感じ。今の選手たちとは全然違う、ほんとにキツイ時代やったんです」

そんな時、めぐり合ったのがメディカルトレーナーの江越さんだった。
「体を触ってもらうとウソみたいにラクになる。捻挫が一発で治る、ケガで動けなかったチームメートが、治療してもらったとたん普通にジャンプできるようになる。まさにゴッドハンド!治すだけじゃなく、筋肉をほぐして故障しない体を作ってくれるのには感動でした」

いつか「あなたじゃなきゃ!」っていってもらいたい

5年目からは主将としてチームを率いる一方で、全日本にも選ばれメンバーの熊前知加子選手らと共にMVPなど多くの賞も獲得する。だがそんな数々の栄冠を手にしながらも、一方で老舗ユニチカの廃部、そして東レへの全体移籍と、時代の流れを誰よりも受け止めざるを得なかったキャプテンでもあった。

「苦労ですか?それがあんまりないんです。目標持ってるコばかりなので、まとめるのもそんなに大変じゃないし。ツライことや泣くこともあるけど、そんなのみんな一緒じゃないですか。それに私寝れないってことがないんですよ、へコんでても気がついたら忘れて寝てる」
いともサラッと笑ってみせるのが、多分彼女のシンの強さとカッコよさ。
そして「やるべきことは全てやった」と28歳で引退を表明した時、いつも体を癒してくれた江越さんのもとで勉強したいと思い立つ。

「いきなり佐賀の江越さんのとこへ押しかけて『弟子にして下さい』みたいな・・・私、勢いだけはイイんです(笑)」
さっそくひとりアパートを借り、江越氏の「健康施術院」で3年間“ゴッドハンド修業”に励むことに。そしてついに一昨年、師匠に太鼓判をもらい「絶対、生まれ育った大阪で開きたい」と堺東に「からだ工房 もみの木」を開院。スポーツ少年からお年寄りまで口コミで徐々に広がり、今ではトップアスリートらも通ってくるという。

「これは予防医学だと思ってほしい。痛みを取り除くだけじゃなく、ケガをしない体を作るために来てほしいんです。もっと自分の体をいたわってほしい・・・選手のころはいつも自分のために練習して頑張ってきたけど、今は誰かのために私が力になれる。『ラクになったわ、これで仕事頑張れる』とかいってもらうと、なんかその人の人生にかかわれた気がするんです。何かを共有できるっていうか・・・もうそれがすっごく嬉しいんです」
いつか「あなたじゃなきゃ!」っていってもらえるのが夢。コートとは違う新しいステージで、今度は信頼というMVPに挑む。

2009/07/03 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔