私的・すてき人

バレエが上達するには、努力が大事。“好き”は上達につながります

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社団法人日本バレエ協会関西支部長、堺バレエ協会会長、泉佐野市文化協会バレエ部会長

ほんだみちこ

本田 道子さん [大阪府堺市在住]

公式サイト: http://www.honda-b.com/

プロフィール

1947年にクラシックバレエをはじめる。
1965年本田道子バレエ研究所(当時)を設立。
1975年そ連モスクワ・バレエ・アカデミーへ研修留学。

バレエは肉体を駆使して魅せる芸術です。そのしなやかで華麗な動きによって観る人をひとときの至福に導いてくれます。もちろん、そのためには厳しい練習は不可欠です。大阪府南地域に六つのバレエスクールを持ち、生徒総数は約500名。指導者として、人生の先輩として、子供たちを取り巻く教育環境に重点を置き、お話をお伺いしました。

日本におけるバレエの現状について、どう思われますか?

今は世界の中でも日本は最高だと思います。関西は東京ほどではありませんが、世界的なバレエダンサーが入れ替わり立ち替わり訪れていてすごい交流がありますので、素晴らしい時代だと思います。羨ましいくらい。わたしがもう二十年若ければ・・・・。あ、二十年じゃダメですね(笑)
本当に今の若い人は、かなり恵まれていると思います。そのわりに何をやっても中途半端で終わってしまう。思い切りやっている人もいらっしゃいますけど、そういう方は本当に一握りですね。

先生が子どもさんたちを教える目的は何ですか?

わたしはプロのダンサーを育ててるわけじゃないんです。バレエを通して忍耐力、集中力、そしていろんな物の見方、センスを養う。そういう風にお子さんをわたしは育ててゆきたいんです。

現在の教育について何か一言を

自由に育てられてるのかもしれませんが、先ず返事ができない子どもさんが多い。たった二文字の「ハイ」が何で言えないのでしょうか。「日本から来た人はすごく礼儀正しくてきちんとしている」
ロシアでは礼儀と躾というのを日本人から習ったというんです。だけど、今の日本人は全然なってないって。ロシアに行っても日本人は返事ができないと言われます。理解できているのかどうかがわからない、というのが向こうの先生の意見なんです。入ってきたら「おはようございます」、帰るときは「ありがとうございました」。わたしは日本人のこういう美徳は残しておくべきだと思うんです。すごく素晴らしいことなんですから。ただ、バレエには言葉はいらないのですが(笑) いらないお喋りは多いのに、どうしてみんなの前でハイって言えないの?って。 そんなことを感じますね。

家で何も教えられてないと?

勉強々で家のことをさせてらっしゃらないんだと思うんですね。今の子育て世代のお母さん方はすごく甘い時代に育ってきた。子どもたちよりもお母さん方の教育をする必要があるかもしれません。かえってお父さん方の方が熱心ですね。今は叱ってくださいっておっしゃるお母さん方も多くなりましたけど、昔は「スパルタ教育」だなんて言われて。子どもはちゃんと言い聞かせればできるんです。頭ごなしに言うんじゃなくてちゃんと理解できるように言ってあげたら、手をとって、足を取ってちゃんと教えてあげたらみんなその通りにするんです。口だけで言うからできないんです。

将来、子どもたちを取り巻く環境はいい方向に進むと思われますか?

わたしたち教師は心の問題をもう少し突き詰めて指導していかなければならないんじゃないかと意見を交わしています。そして、学校も少しずつ変わっていくだろうと。お母さんたちも躾っていうのは大事な物なんだなと分かってらっしゃると思いますし、子どもたちもいろんな事を見聞きして分かっていると思うんです。小さいときにいいことはいい、悪いことは悪いと知ることが一番大事だと思うんです。

戦後の混乱期から高度経済成長期、バブル景気から現在までをバレエという芸術を通して見てこられた本田先生。子育て世代には耳の痛い意見も多くおっしゃられていましたが、その一言一言には教え子さんを含む、これからの世の中を背負って立つ子どもたちへの愛情が多く見受けられました。バレエを通して人間としての豊かさと美しさ、それは外見だけではなく精神的な美も教え、育てられてきた先生の明るくはっきりとした言葉に襟を正される思いの取材でした。

2002年9月発行フリーペーパー「キットプレス・2002年秋号」 掲載 (取材・文/歯黒猛夫)