私的・すてき人

オモシロくて新しい、そんな商店街をつくりたい

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「パティスリーアン・スリール」オーナーシェフ 「さのまちゼミ」実行委員長

こうぶん かずお

公文 一雄さん [大阪府泉佐野市在住]

公式サイト: http://www.patisserie-unsourire.com/

プロフィール

1978年 泉南市出身
1996年 東京製菓学校入学
2011年 泉佐野に洋菓子店「パティスリーアン・スリール」オープン
2018年 「さのまちゼミ」実行委員長に

「泉佐野ってオモロい街やなあ!」そういってもらえる場所にしたい――そんな思いがひとつになって「さのまちゼミ」は動き出した。
 
泉佐野駅前に広がる商店街は今、ご多分にもれず時代という大きな波に取り残されたまま、衰退し行き場を失っている。
「このままではアカンと。おいしいレストラン、薬局、エステサロン…どの店も一人ひとりにはスゴい知識や技術があるのに、なぜ連携していかんのやろうと思ったんです。皆で自発的に動き出したら絶対変わっていくはずなんです」
 
かつて商店街は、買い物がてら色々な人やモノに出会えるオモシロい場所だった。またそんな人と人をつなぐ場所にしたい…
“再生”への道はまだ始まったばかり。「楽しく生きる!」がモットーという彼が、この商店街をさてどんなアイデアで楽しい「ワンダーランド」に変えていくのか――
 
 

シェフは体力!と器械体操部に

「さのまちゼミ」とはそれぞれの商店主が講師となり、プロの技やノウハウを地域の人たちに無料で伝授するというイベント。タダでプロのテクニックが学べる、セールスはしないので安心、店と地元の人との間に交流が生まれる…とまさにいいとこづくめの企画なのだ。
「8月から1ヶ月半開催したんですが、70店舗も参加してくれて、100講座開かれました。まだ2回目でこの成果は自慢できるんちゃうかなと思ってます(笑)」
 
 
根っから料理やお菓子作りの好きな少年だった。
「小学校の時からご飯も作ってたし、魚なんかもさばいたり。ホットケーキを焼くでしょ。そしたらちょっとした分量とか焼き加減で、全然でき上がりが違う。“最高においしいライン”を探すのがすごくおもしろくて…」
 
「好き」はいつしか目標に変わり、シェフになりたいという思いはふくらんでいく。「中学3年のクリスマスに叔父が経営するケーキ屋でアルバイトをさせてもらったんですけど、まあ、これがシンドイのなんの。朝から夜まで立ちっぱなしで4日目にはダウン寸前になるほど大変で。シェフは体力勝負や!と気づいて、高校では器械体操部に入ったんですよ。僕の青春はすべて、ケーキ屋になるために回ってたようなものなんです(笑)」
 
東京製菓学校を卒業すると、神戸の人気洋菓子店「レーブ・ドゥ・シェフ」で腕を磨いた。その後いくつかの店を経験し、31歳の時ここ泉佐野に「パティスリーアン・スリール」をオープンする。
 
やさしい甘さが評判になり店はファンで賑わうようになったものの、気になりだしたのが店からほど近い駅前商店街の、あまりにも元気のない姿。
 
大規模なスーパーやモールが誕生し、さらにネット販売が浸透してくると昔ながらの商店街は、どこもうす暗いシャッター街と化してしまう。
「でも大型店が出来たから仕方ないって諦めるのは、違うと思うんです。誰かのせいにするんじゃなく、勝つためにはどうしたらいいのか、自分たちで改革していかないと何も変わらない」
 
 

子どもに頑張るオヤジの背中を見せたい

その頃、活気の無い泉佐野を元気にしようと、住民たちはさまざまな視点でアクションを起こしていた。例えば「りんくう花火実行委員会」のメンバーたち。途絶えていた「りんくう花火大会」を8年ぶりに住民の手で復活させ、なんと3万人もの観客を動員することに成功していたのだ。
 
街を変えるには、人を惹きつける“仕掛け”がいる…
 
 
そう思い始めた時知ったのが、勝ち組商店街のモデルケースとして有名になった、愛知県岡崎市の「得する街のゼミナール」だった。この活動は、今や全国ネットで広がり各地で大きな成果をあげつつある。
 
これ、やってみよやないか――
手を挙げた仲間とともにさっそく実行委員会を作り、商工会議所の助けを借りながら昨年活動をスタート。商店街だけでなく、駅周辺の店を巻きこんでの挑戦が始まった。
 
「これはお客さんとのコミュニケーション事業なんです。こんな信頼できる店があったんやとか、おトクな情報教えてくれるとか人同士のつながりが生まれれば、次につながっていく。商店街にしかない魅力を発信していくことで、街は変わっていけるんです」
 
最初は半信半疑だった商店主たちも、次第に手ごたえを感じ始めるように。2回目となった先日のイベントでは、「日本酒と料理のマリアージュ体験」「夏の自由研究」など、100ものお役立ち講座が参戦。アッという間に予約が満杯になってしまう講座まで登場した。
 
 
さらに「泉佐野ふるさと町家館(旧新川家)」を借りて、いくつもの講座を同時開催したりコラボさせたり…とアイデアを駆使して“再生”への道を探る。
 
「とりあえず目指せ10回!です。このイベントが街を変えていけるように、実績を作っていくのが僕の使命やと思ってるんです」
 
「ずっと応援し続けてるりんくうの花火大会もそうやし、オモシロい商店街をつくることも、何より子どもたちに『泉佐野はエエとこやなあ』って思ってほしいから。で、いつか僕の子どもらが大人になって、『オヤジそういえばなんかやっとったな』って思ってくれたらうれしいなと。背中を見せていくつもりで頑張っていこうと思ってるんです」
 
 

2018/8/14 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔